9.1 単純構造

───まいったな〜。店長の変な仮説を検討しなくちゃならないみたいだわ。しかたないわ。ちょっと自分で考えてみよう。

───店長の出した「出生順によるアイスクリームの好みの差」というのは「トンデモ」っぽい感じがするから、「性別によるアイスクリームの好みの差」で考えたらどうかな。たとえば、「ミント系のアイスクリームの好みには、男女間で差がある」というような仮説。もし、これで差があるのであれば、男女別のお勧めメニューみたいなのが考えられるわね。

「どうしたのアイ子ちゃん。むずかしい顔をして」

───あ、三ヶ島先輩。「性別によるアイスクリームの好みの差」があるかどうかを考えているところなんです。たとえば、ミント系のアイスクリームの好みには、男女間で差があるのかどうかを調べたいと思って。

「ふむふむ」

───あ、そうか。因子分析の結果から、ミント系のアイスクリームは、「ミント」と「チョコミント」ということがわかっているんだから、その2つの好みのデータを男女別に平均して比べればいいんじゃないかな。

「なるほど、いい線いっているよ。そのやり方を検討してみよう」

───三ヶ島先輩、お願いします。

単純構造

13種類のアイスクリームの好みを因子分析した結果はこうなっていたね。

因子2のところを見ると、確かにミントとチョコミントの因子負荷が高くなっている(オレンジ色の枠)。だから、ミントとチョコミントの好みの元データを男女別に平均して比較するというのは、基本的な方法としてはいいだろう。

だけど、因子2のところを詳しく見ていくと(青色の枠)、抹茶は-0.199という因子負荷になっていて、ミントほどじゃないけど、無視できない負荷になっているね。それから、クッキーは0.330という正の負荷になっていて、ミントとは逆の方向に負荷がかかっている。これも無視できない数値だ。

───うーん。ミントとチョコミントだけに因子負荷がかかっていて、その他は全部ゼロならいいのに〜。

そうだね。そうであれば、全体がすごくシンプルになるよね。

それぞれの観測変数について、特定の因子の因子負荷だけが高くて、それ以外はゼロに近いものであれば、因子分析の解釈がすごく楽だ。たとえば、以前にやった、マカダミアナッツ、ウォールナッツ、チョコチップ、チョコレートによる因子分析は、これに近いシンプルな因子負荷を示していたね。

こういうパターンを「単純構造」と呼んでいるんだ。

───あーん、今回の因子分析も単純構造にならないんですか?

いや、観測変数が増えてくると単純構造になることはまれだよ。それに、単純構造になるということは、観測変数が完璧に分類できるということであって、通常はそういうことはあまりない。

たとえば、チョコミントのような、チョコレート味でもありミント味でもあるようなものが入っていれば、単純構造にはならないだろうし、むしろチョコミントがチョコ系とミント系の中間くらいに位置することがわかれば因子分析をやっている意味があるというものだ。

───単純構造じゃないということは、単にミントとチョコミントの点数を平均したものを男女で比較するわけにはいかないですよね? 困ったな〜

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